海の中を見ることのできない海人は、
一つひとつの石に勘を託す
陽も少しずつ傾き始める昼下がり。どこからともなく、乾いた音が響きます。港川漁港のいたるところに積み上げられたサンゴの石を、海人がひとり黙々と削っていました。昔、宮古から伝わったという石巻落とし漁。仕掛けを巻きつける石の形が漁を左右します。経験と勘が頼りの海人は、餌を落とす深さや潮の流れを見極め、絶妙なバランスに石を整えます。
ひとりで漁に出る海人にとって、ともに船に乗せる石はまさに相棒。糸を巻かれ放たれる石は、狙いどおりの場所に針を導き、そして離れます。海の中を見ることのできない海人は、一つひとつの石に勘を託すのです。その一投はまさに、石との一期一会。たくましく日焼けした手が、そんな一投を担う相棒を丁寧に育てていました。漁に出れば次々と放たれる石たち。きっと海底に積み上げられたいくつもの石が、小魚を集める漁礁と変わり、漁の手助けをしていることでしょう。